仕事柄、相続が発生したお客様の遺言書を拝見する機会が多いのですが、遺留分を考慮していない遺言書や表現が曖昧な遺言書が多いため、以下をお読みになって少しでもご参考にしていただければと思います。
1.遺言書の効力は?
遺言書を残しておかなくても、各相続人には法定相続分に従って財産を分けることはできます。
※法定相続分は下図参照
相続人 | 法定相続分 |
配偶者と子ども |
●配偶者 1/2 ●子ども 1/2 (子どもが2人であれば、1/2を2分割) |
配偶者と直系尊属 |
●配偶者 2/3 ●直系尊属 1/3 (直系尊属が父母の2人であれば、1/3を2分割) |
配偶者と兄弟姉妹 |
●配偶者 3/4 ●兄弟姉妹 1/4 (兄弟が2人であれば、1/4を2分割) ※父母の一方を同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母を同じくする兄弟姉妹の 1/2となります |
配偶者のみ、子ども のみ、直系尊属のみ、 兄弟姉妹のみ |
●各人 全持分 |
しかしながら、絶対に法定相続分どおりに遺産分割しなければいけないということではありません。遺言で相続分を指定すれば、遺言が優先されます。遺言者が遺言によって決めることのできる相続人の相続割合を指定相続分といい、遺言書による指定相続分は遺言者が決めることができるのです。
但し、遺言書がなくても相続人全員による遺産分割協議で相続分を決めることもできます。
2.遺言書作成時の注意点は?
遺言書を作成する前に、あらかじめ誰がご自身の相続人なのかを把握しておく必要があります。
相続人には順位があるのですが、配偶者は順位に関係なく常に相続人となります。配偶者以外では、子どもが第1順位、直系尊属(親など)が第2順位、兄弟姉妹が第3順位となります。第1順位である子どもがいない、またはすべての子どもが亡くなっている場合(孫などの代襲相続人もいない)は第2順位の直系尊属、第2順位である直系尊属がすべて死亡している場合は第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。ここでの注意点は、子ども・直系尊属・兄弟姉妹が同時に相続人になるわけではないということです。
つまりは、配偶者がいれば、配偶者と子ども、配偶者と親など、配偶者と兄弟姉妹のいずれかの組み合わせで相続することになります。
配偶者がいなければ、第1順位の子どもがすべて相続します。配偶者も子ども(代襲相続人を含む)もいない場合は、第2順位の親などの直系尊属が、されにすべての直系尊属もいない場合は、第3順位の兄弟姉妹が相続します。
(参考)
【法定相続人の範囲】
- 被相続人(亡くなった人)の配偶者
- 血族の子ども(亡くなっている場合は、代襲相続人となる孫、曽孫と続いていく)
- 血族の直系尊属(父母のどちらかが生きているなら存命の父母、父母がどもに亡くなっている場合は、祖父母、曽祖父母と続く)
遺言の最大の注意点は、「遺言書による指定相続分は遺言者が決めることができる」と記載しましたが、相続人には、相続人ごとに民法で定められている最低限の取り分(遺留分といいます)があり、遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者)は、その他の相続人に対して侵害分を請求することができます(改正民法では「遺留分侵害額請求権」といいます)。
従いまして、後々の紛争を起こさないため遺言書を作成する際には遺留分に注意を払うべきです。
【遺留分割合】
相続人 | 遺留分 | 計算式 |
配偶者のみ | 1/2 | 全持分×1/2 |
配偶者 子ども |
1/4 1/4 |
1/2×1/2 1/2×1/2 |
配偶者 直系尊属 |
1/3 1/6 |
2/3×1/2 1/3×1/2 |
配偶者 兄弟姉妹 |
1/2 なし |
全持分×1/2 - |
子どものみ |
1/2 |
全持分×1/2 |
直系尊属のみ |
1/3 |
全持分×1/3 |
兄弟姉妹のみ |
なし |
- |
※兄弟姉妹には遺留分は認められていません
また、法律に定められたルールに沿ったかたちで遺言書を作成していないと無効になってしまいます。ルールに則った遺言書を作成するのは簡単なことではないため、困った際は、専門家(弁護士・司法書士・行政書士・FP等)にご相談ください。
3.遺言書の種類と取扱い
一般的に遺言書は、自筆証書遺言と公正証書遺言があります(その他の形式もあります。詳しく知りたい方はコチラ)。
自筆証書遺言は遺言者が自分で手書きで作成する遺言書です。他方、公正証書遺言は、遺言内容を公証人に伝え、公証人が遺言書の書面を作成します。作成された遺言書は公証役場に保管されるため、自筆証書遺言と違い、紛失や改ざんの心配がないという利点があります。但し、公証人への手数料と、証人への日当が発生します。
そこで、自筆証書遺言をより利用しやすくするために、改正相続法では、今年(2020年)の7月10日より法務局で保管できるようになります。法務局で保管した自筆証書遺言は、実行時に家庭裁判所による検認の必要がない、そして、法務局が定める様式で作成するため、作成上の不備により無効になるリスクも軽減されます。また、財産目録をパソコンで作成し、登記簿謄本や通帳の写しを添付することができるようになったため、書き写し間違いによる無効のリスクも低くなりました。
2018年7月に改正された相続法が2019年1月以降、順次施行されています。遺言書制度に関しましても、改ざん防止や作成方法の制限の緩和等、変更が加えられ、遺言書はこれまでと違って作成しやすく、有用なものになったと言えます。『自分の想い』を反映し残すためにもひとつのきっかけになれば幸いです。
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