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自筆遺言を法務局で保管する新制度創設へ


 生前に被相続人が書く自筆証書遺言は、自身が自宅で保管するか、弁護士や行政書士に預けておく、また、銀行の貸金庫で保管してきましたが、公的機関である全国の法務局で保管できるようにして、相続人が遺言があるかを簡単に調べられるようにする「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」が、今年3月13日に国会に提出されましたが、そもそも「遺言」とはどのようなものでしょう。

  【法案の提出理由】出所:内閣法制局

 高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続をめぐる紛争を防止するため、法務局において自筆証書遺言

 に係る遺言書の保管及び情報の管理を行う制度を創設するとともに、当該遺言書については、家庭裁判所の検認

 を要しないこととする等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


遺言とは

 生前に、財産を家族や第三者に残すことについて、自分の考えを示しておくものが遺言(いごん)です。遺言は必ず本人が単独で行わなければななず、また、その内容は、自分が死んだ後に初めて効果を発揮します。

1.遺言能力

 遺言は、満15歳以上で、かつ意思能力があれば、だれでも作成することができます。

具体的には、

①未成年者は法定代理人の同意なく

②被保佐人は保佐人の同意なく

③成年被後見人は、事理を弁識する能力を一時回復したときに医師2名以上の立ち会いにより心神喪失の

 常況になかった旨の証明があった場合に、

それぞれ作成できます。

2.遺言でできること

 遺言書は、一定の方式を守っていれば、どのような内容を記載しても無効になることはありません。ただし、遺言が法律上の意味をもつ事項については、民法において定められています。

【法律上の意味をもつ事項】

①身分に関する事項
 ・婚姻外に生まれた子の認知
 ・子どもが未成年者である場合などの後見人や後見監督人の指定
②相続に関する事項
 ・被相続人への侮辱・虐待や相続人の著しい非行があった場合の相続人の廃除、および廃除の取消し
 ・遺産分割方法の指定、および指定の委託
 ・遺産の全部または一部の分割を禁止
③財産処分に関する事項
 ・遺言により財産を無償で供与する遺贈、および財団法人設立のための寄附行為
 ・遺言により財産の管理・処分を行う信託の設定 

遺言の種類

 遺言には、普通様式遺言特別方式遺言(※)の2種類がある。このうち一般的な遺言は普通方式遺言であり、特別方式遺言は通常使用されることはありません。

※特別方式による遺言とは、例えば重病で死期が差し迫っている危急の場合など、特殊な状況のため、普通方式で

 は遺言ができない場合に認められるものです。

【遺言の方式】

遺言の方式

【普通方式遺言の種類と特徴】

種 類 自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法

 本人が遺言の全文

 ・日付(年月日)・

 氏名等を書き押印

 (認印可)する。

 ワープロ、テープ

 不可

 本人が口述し、公証人

 が筆記する。

 ・印鑑証明書

 ・身元確認の資料

 ・相続人等の戸籍謄本、

  登記簿謄本など

 本人が遺言書に署名押印の後、

 遺言書を封じ同じ印で封印する。

 公証人の前で本人の遺言である

 旨と住所氏名を申述する。

 公証人が日付と本人が申述した

 内容を書く。

 ワープロ、代筆可

場  所  自由  公証役場  公証役場
承  認  不要  証人2人以上  証人2人以上
署名押印  本人  本人、公証人、証人  本人、公証人、証人
家庭裁判所の検認  必要  不要  必要 

1.自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自署し、押印して作成する遺言です。作成上の注意点は次のとおりです。

 ①筆記用具

  鉛筆・万年筆などなんでも良いとされていますが、変造防止や保存の観点から、鉛筆は不適当です。

  用紙もどのようなものでも良いのですが、保存に適した用紙を用いるべきです。

 ②印 鑑

  三文判でもかまいませんが、偽造や変造防止の観点から、実印を用いるのが適当です。

 ③書 式

  縦書き・横書き、言語なども判読可能であれば書式は自由です。また、封筒にいれることは要件では

  ありませんが、封筒にいれて封印すれば内容を秘密にすることができ、さらに変造を防止することが

  できます。

 ④日 付

  遺言能力の有無を判断したり、複数の遺言書があったりした場合、その前後を確定するためにも、日

  付は極めて重要なものです。特定の日を自書しなければなりません。

 ⑤氏 名

  通称や雅号、芸名でも良いとされていますが、無用なトラブルを避けるため戸籍上の氏名を記すのが

  適当です。

 ⑥加除その他の変更

  訂正がある場合、遺言者がその場所を示し、変更した旨を付記してこれに署名し、その変更の場所に

  押印しなければ、その変更には効力がありません。

2.公正証書遺言

 公正証書遺言は、自書が要件ではなく、公証人によって作成されるので、文字が書けない人でも作成できます。また、原本は公証役場に保管されるため安全確実な遺言の方式ですが、遺産の価格などによって公証人の手数料が決定するため、遺産が多ければその分手数料も高くなります。

 公正証書遺言は、次のように作成します。

 ①公証役場において、証人2人以上の立ち会いのもとで、遺言者が遺書の内容を公証人に口述します。

 ②公証人は口述を筆記し、筆記内容を遺言者と証人に読み聞かせます。

 ③遺言者と証人は、筆記内容が正確であることを承認したうえで各自これに署名押印します。

 ④公証人は、その証書が上記の法定手続きに従って作成されたものであることを付記し、署名押印しま

  す。

3.秘密証書遺言

 秘密証書遺言は、遺言内容を秘密にして保管するための方式で、遺言書が封入されていることを公正証書の手続きで公証するというものです。したがって、遺言の文言は自筆である必要はなく、ワープロでも代筆でもかまいません。公証人は遺言内容については点検しないため、遺言が無効になる恐れがあります。秘密証書遺言として無効であっても、自筆証書遺言としての要件が備わっていれば自筆証書遺言として認められます。

 秘密証書遺言は、次のように作成します。

 ①遺言者が証書に署名、押印します。

 ②遺言者が証書を封入し、証書と同じ印鑑で封印します。

 ③証人2人以上の立ち会いのもとで封書を公証人に提出し、これが自分の遺言書であることと、証書を

  書いた人の氏名や住所を申述します。

 ④公証人が遺言者の申述と日付を封紙に記載し、遺言者・証人・公証人が署名、押印します。

 ⑤公証人は、その証書が上記の法定手続きに従って作成されたものであることを付記し、署名押印しま

  す。

4.検認と開封

 遺言書は、家庭裁判所において検認手続きを行わなければなりません(公正証書遺言は不要)。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人の立ち会いのもと、開封を行う必要があります。

 検認とは、どのような遺言書があったかを記録する手続きであり、遺言書の偽造・変造の防止・証拠保全のために行います。

 【検認手続き】

   遺言書の存在、形状を確認する形式的な手続きで、遺言として有効か無効かの判断はなされません


遺言の撤回・無効・執行

1.遺言の撤回

 遺言者は、いつでも遺言の方式に従ってその遺言の全部または一部を撤回することができます。また、遺言を撤回する権利を放棄することは認められず、遺言者の最終意思の確保が図られています。

 民法が定める遺言の撤回は、次の5つの場合です。

【遺言の撤回】

 ●前の遺言を撤回する遺言を行った場合
 ●前の遺言と抵触する遺言を行った場合
 ●遺言を行った後、それに抵触する生前贈与をした場合
 ●遺言者が故意に遺言書を破棄した場合
 ●遺言者が遺贈の目的物を故意に破棄した場合

2.遺言の無効

 遺言書の作成方式に違反した場合のほか、意思能力のない者や15歳未満の者が行った遺言は無効となります。また、公序良俗違反の遺言も無効となります。

3.遺言の執行

 遺言のとおりに相続財産を処理することを遺言の執行といい、執行する人を遺言執行者といいます。遺言の執行は、相続人または遺言執行者により行われます。

 遺言執行者は、通常は弁護士が就任しますが、相続人が就任してもかまいません。


 冒頭の法案が可決されますと、自筆証書遺言であっても、法務局に預けた場合は、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容確認をする検認の手続きが不要になります。また、法務局での保管となりますと、相続人の死後に遺言が所在不明になる恐れもなくなります。さらには、財産の一覧を示す財産目録もこれまで自筆に限定されていましたが、ワープロでの作成を可能にするということですので、ますます利便性が高まります。

 今まで、公正証書遺言が、証拠能力や偽造・変造・隠匿の危険のなさ、検認手続きを要しないというメリットがある一方、作成手続きが煩雑、証人2人以上の立ち会いが必要とったデメリットもありましたが、この法案の可決により、「終活」への関心が高まっていますので、遺言というのが身近になれば良いですね。ただ、公証人への口述と公証人による筆記がないため、作成には十分の注意が必要です。


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