高齢者が認知症などで判断能力が低下した場合に備え、財産管理をあらかじめ信頼する人に委ねる「任意後見制度」が増加し、注目を集めています。
事前に任意後見契約を締結しておくと、将来本人の判断能力が低下した場合、任意後見受任者が家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任を申し立て、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、任意後見事務が開始します。これにより、本人の判断能力が低下しても、任意後見人によって、財産の管理、保全がなされます。
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。
すでに本人の判断力が衰えている場合、親族などが家庭裁判所に申請するのが「法定後見制度」。後見人を選任するのは家庭裁判所のため、本人や親族が望む人が後見人になるとは限りません。
一方、本人が元気なうち(判断能力があるうち)に信頼のおける人を後見人として選んでおくのが「任意後見制度」。ただし、公正証書で任意後見契約を締結します。
※厚生労働省によると、認知症の高齢者は平成24年(2012年)は約460万人。平成37年(2025年)には約700万人に
増えると推計され、65歳以上の5人に1人を占めることになります。
任意後見契約公正証書が作成されると、公証人が法務局に任意後見契約の登記を嘱託し、任意後見契約が登記されます。
本人の判断能力が低下した時点で、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者は、家庭裁判所に、任意後見監督人選任の申し立てを行います。
家庭裁判所により任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が生じ、任意後見人による任意後見事務が開始されます。
任意後見契約を締結してから、本人の判断能力が低下し、任意後見監督人が選任されるまでの間、時間がかかります。この間に、本人の様子を定期的に確認しておかないと、適切な時期に任意後見を開始できない場合があります。そこで、本人の様子を定期的に確認する契約として見守り契約がありますので、見守り契約は、任意後見契約締結と同時に締結しておくと安心です。
また、任意後見契約は本人の死亡により終了するので、葬儀等の死後の事務を委託することはできません。死後の事務を委託する場合は、判断能力がある段階で前もって死後事務委任契約を締結する必要があります。
法定後見人は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、成年被後見人のなした法律行為について取消権を有していますが、任意後見人には取消権がありません。本人が自己に不利益な契約をしてしまう等の場合は、任意後見契約を終了させ、法定後見の申し立てをする必要があります。
高齢者は、年々増加傾向にあり、それに伴い判断能力が低下した認知症高齢者を狙った詐欺事件も増加しています。そのような事態を避けるためにも、判断能力がある段階で、あらかじめ財産を管理・保全できる対策をとる必要があります。
任意後見制度は、本人の判断能力がある段階で、任意後見契約を締結し、将来本人の判断能力が低下した時点で契約の効力を発生させる制度です。また、任意後見受任者、任意後見事務内容などを自由に決めることができ、本人の意思が反映された有効な相続対策と言えるでしょう。
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